MIDNIGHT HERO

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海援隊、チューリップ、甲斐バンド、長渕剛を育てた、福岡にある伝説のライブハウス「照和」の昔。そして、現在(いま)。(1)

福岡市にある、伝説のライブハウス「照和」。

1970年に開店。二度の閉店を経て、1991年に復活、現在も営業している。

当時の面影そのままに、 西鉄福岡(天神)駅のすぐ横というアクセスのよさだ。

 

70年代、地元ラジオ局の深夜放送ブームの中、福岡育ちの少年少女の耳には、チューリップ甲斐バンド長渕剛といったミュージシャンの歌が自然に聴こえてきた。

テレビでは、海援隊武田鉄矢がドラマ「3年B組金八先生」で役者として大ブレイクしていた。

 

彼らは皆、アマチュア時代、福岡市にある同じライブハウスで活動していた。

それが「照和」だった。

http://www.flickr.com/photos/65811939@N00/8441347106

 リバプール。

 

1970年代、福岡は日本のリヴァプールと呼ばれた。

イギリスの都市リバプールは、ビートルズ誕生の地として知られている。

ビートルズの登場以降、次々とイギリスのバンドがアメリカのヒットチャートを席捲し、 世界のミュージックシーンにはかりしれない影響を及ぼした。

 

http://www.flickr.com/photos/45631190@N02/4191790770

 ビートルズの 4人。

 

福岡でも同じような現象が起こった。

福岡の田川出身の井上陽水 (当初、アンドレカンドレの名でデビュー)。

 

「照和」で演奏していた武田鉄矢海援隊財津和夫率いるチューリップ甲斐よしひろ甲斐バンド、やや遅れて鹿児島から出てきた長渕剛がメジャーデビュー。

70年代以降、彼らは次々と大ヒットを飛ばした。

 

チューリップは、「心の旅」「サボテンの花」。

心の旅

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  • チューリップ
  • J-Pop
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Tulip Garden

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  • チューリップ
  • J-Pop
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甲斐バンドは「裏切りの街角」「HERO」「安奈」。 

裏切りの街角

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  • 甲斐バンド
  • ロック
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HERO (ヒーローになる時、それは今)

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  • 甲斐バンド
  • ロック
  • ¥255
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海援隊は「母に捧げるバラード」「贈る言葉」。 

贈る言葉

贈る言葉

  • 海援隊
  • ポップ
  • ¥255
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井上陽水は、1973年発表のアルバム「氷の世界」で、日本レコード史上初のLP販売100万枚突破の金字塔を打ち立て、フォーク界で吉田拓郎と並び称されるビッグネームとなった。

心もよう

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  • 井上陽水
  • J-Pop
  • ¥255
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Koorino Sekai (Remastered 2018)

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  • 井上陽水
  • J-Pop
  • ¥2037

 

長渕剛は、今や日本のスーパースターの座に君臨している。
デビュー当時は、華奢でやせ顏のフォークシンガーだった。

巡恋歌

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  • 長渕 剛
  • J-Pop
  • ¥255
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逆流

逆流

  • 長渕 剛
  • J-Pop
  • ¥2037

また、1979年「照和」での活動はなかったが、福岡出身のチャゲ&飛鳥が「ひとり咲き」でメジャーデビュー。

1990年代には絶頂期を迎え大ヒット曲を連発、アジアでも絶大な人気を誇った。  

ひとり咲き

ひとり咲き

  • CHAGE and ASKA
  • J-Pop
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VERY BEST ROLL OVER 20TH

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  • CHAGE&ASKA
  • J-Pop
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http://www.flickr.com/photos/34530295@N06/20141188736

photo by Yoshikazu TAKADA      中洲の夜景。

 

 1980年代になっても、福岡は次々と優れたアーティストを生んだ。

 「照和」は、甲斐バンドが「HERO」で大ブレイクする直前の1978年11月30日、閉店。

しかし、それ以降も「照和」の出身者から、森山達也率いるTHE MODS、ヴォーカルに久留米出身の石橋凌を擁するARB陣内孝則ロッカーズと多くのアーティストを輩出する。

バラッドをお前に(Single)

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  • The Mods
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes
BEAT ODYSSEY

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  • The Mods
  • J-Pop
  • ¥2139
Just a 16

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  • A.R.B.
  • ロック
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Ballads And Work Songs

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  • A.R.B.
  • ロック
  • ¥2241

さらに、博多区須崎のロック喫茶「ぱわぁはうす」を拠点に活動していた鮎川誠サンハウス、(のち鮎川は、シーナ&ロケッツを結成。)大江慎也ルースターズらが出て、めんたいロックは日本の音楽シーンに歴史を刻んだ。

 

その証しに、長崎出身の福山雅治は、THE MODSやARBから強い音楽的影響を受けた。

ARBの石橋凌の初ソロアルバム『表現者』の制作に参加し、自身のオーディションでARBの曲を歌ったことを明かしている。

YOU MAY DREAM

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  • シーナ&ロケッツ
  • ロック
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Golden Best Sheena & the Rokkets Victor Rokkets 40+1

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  • シーナ&ロケッツ
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ゴールデン☆ベスト ザ・ルースターズ

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  • アーティスト:THE ROOSTERS
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2009/02/18
  • メディア: CD

 

久留米出身の藤井フミヤ武内亨が1980年に結成したチェッカーズは、1983年「ギザギザハートの子守唄」でデビューし、超人気バンドとなった。 

ギザギザハートの子守唄

ギザギザハートの子守唄

  • チェッカーズ
  • ポップ
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes
THE CHECKERS SUPER BEST COLLECTION 32

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  • チェッカーズ
  • J-Pop
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なぜ福岡からこれだけ多くのアーティストが輩出したのか?

 「照和」が開店した1970年、60年安保闘争の終わった虚無感の中、若者たちは、次々に登場した新しい音楽、GSやモダンフォーク、ビートルズなどに強い刺激を受け、活動の場を求めて音楽イベントの自主開催を行うようになった。

 

ラジオの深夜放送が人気を集めるようになったのも、この頃だった。

これは福岡に限ったことではない。 

しかし、時代背景とともに、福岡が大きな求心力をもって、ミュージシャンを目指す若者たちを吸い寄せる磁場となったのは、偶然ではなかった。

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福岡市天神地区(写真提供: 福岡市)

 

当時、九州で数少ないライブハウスだった「照和」。

甲斐よしひろは言う。自分が歌える場所は、ここしかなかった。

福岡の私立大学である西南学院大の財津和夫、福岡教育大の武田鉄矢、彼らは当初、学外でライブをやるときは、天神の須崎公園などで歌っていた。

 

その彼らに歌う場所を提供したのが、フォーク喫茶「照和」だった。

そこからプロとしてチューリップ、海援隊がデビューしたことで、プロを目指す若者の目が一心に集まった。

 その音楽仲間の交流から、離合集散を経て、多くのアーティストがデビューすることになった。  

照和 My Little Town KAI BAND [DVD]

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  • 出版社/メーカー: Happinet(SB)(D)
  • 発売日: 2011/06/02
  • メディア: DVD
  

www.youtube.com

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(Photo :  デラシネ。店のオーナーの許諾を得て撮影。)

 

「照和」に出るためには、オーディションがあった。まず、「照和」のマネージャーらに、演奏を聴かせて納得させねばならなかった。

 

チューリップや海援隊の上京後、「照和」を満杯にできるスターであり、ウェイターをしていた甲斐よしひろは、その時期「照和」を仕切っていたといってもよかった。

 

その頃、オーディションで彼が見出したメンツは、森山達也石橋凌

 

デビューできなかった人間が、マネージャーをやって、新しい才能を見つけることもあった。

ハリちゃんこと張田龍一、「あかんべぇ」というバンドをやっていた秋吉恵介は長渕剛を見出し、育てた。 

 

デビューしたあとも、彼らの絆は結ばれていた。

チューリップの財津和夫は、所属するシンコーミュージックに、甲斐よしひろのデモテープを聴かせて契約を勧めた。

そして、甲斐よしひろも、ARBの石橋凌を同じように推薦したという。

 

余談になるが、まだ小学生の藤井フミヤが、久留米から演奏を聴きに「照和」にやってきたことがあるという。

それでも、小学生を入れるわけにもいかず、武田鉄矢らは諭して帰したそうだ。 

 

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那珂川沿いの屋台の風景。(写真提供: 福岡市) 

 

地元放送局のディレクターやプロデューサーの強力なバックアップ。

KBC九州朝日放送の、岸川均

RKB毎日放送の、野見山實

TNCテレビ西日本の藤井伊九蔵

彼らは、地元ミュージシャンの発掘、後方支援に大きな役割を果たした。

 

KBCの岸川は、ラジオで「歌え若者」というアマチュアを出演させる番組の企画を執念で通し、この番組に地元で活動するアマチュアミュージシャンに、多くの出演の機会を与えた。

 

それだけでなく、目を付けたチューリップや甲斐よしひろをはじめとするプロ志望のミュージシャンには、全国コンテストの出場に同行したり食事に連れて行ったりと、公私ともに父親のような存在であり続けた。

これは、岸川だけでなく、ほかの二人にも同じことがいえた。

 

岸川が定年退職を迎えた1998年には、山下達郎、浜田省吾ら18組のアーティストが退職記念コンサートを4日間にわたり開催した。

会場は、福岡サンパレス。

 

その中で甲斐バンドは一夜限りの再結成をし、唯一ワンマンで1日の公演を行った。

私は、生で、そのステージを見た。

岸川氏はステージ上の左側に設けられた特別席に座り、終始にこやかな笑顔で、演奏するバンドの様子を見ていた。

 

これほど大規模に、退職記念としてコンサートを開いてもらえるローカル局のプロデューサーがどこにいるだろうか? 

照和伝説

海援隊の千葉和臣と中牟田俊男が、地元・福岡で、当時を知るKBC 九州朝日放送の岸川均氏や仲間たちと、照和の想い出を語り合います。

 

RKBの野見山實。

RKBラジオの彼のもとに届けたデモテープがきっかけで、井上陽水はアンドレカンドレとして、CBSソニーからデビューした。

野見山は、「スマッシュイレブン」という夜のラジオ番組をやっており、番組は局の後輩、井上悟に引き継がれた。

 

陽水は、井上悟にも恩義を感じていた。石川セリと入籍したとき、陽水は「スマッシュイレブン」に電話で生出演し、井上悟に結婚の報告をした。オレは生でそれを聴いていた。

 

TNCの藤井伊九蔵は、ラジオ局を持たない局であったが、「レッツゴーフォーク」などのコンサートを毎月主催していた。

 

この3人は、1993年、福岡ドームのこけら落とし公演でステージに上がり、共演した井上陽水、武田鉄矢、財津和夫、甲斐よしひろの4人から、自分たちを育ててくれた3人のディレクターとして紹介されている。

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左から、岸川均氏、野見山實氏、藤井伊九蔵氏。

(Photo  :  下の記事(西日本シティ銀行の公式サイト)より引用。

  

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(店内のスクラップブックより。)

 

そして、忘れちゃいけない屋台の存在。「喜柳」のおばちゃん、片渕早苗さん。

 天神にある屋台「喜柳」。

「照和」のギャラは、1日2ステージで1,400円。

ソロもバンドも変わりはない。

バンドはメンバーで割って、その日のメシ代と交通費で消えてゆく。

 

みんなが腹を空かした野良犬状態。

金がないとわかっていても、「喜柳」のおじちゃんおばちゃんは、利益を度外視して天ぷらやメシを食わせてくれた。

 

まったく利害関係抜き、金だけじゃない暖かさがあった。

だからこそ、彼らのパワーは充電できた。出演バンドのみんながお世話になった屋台が、この「喜柳」だった。

 

甲斐よしひろは、自分のラジオ番組で、「喜柳」を博多の行きつけ屋台と話していた。

かくいう私も、高校時代、福岡市を訪れて「喜柳」に行ったことがある。

 

ラーメンを一杯注文して、「おばちゃん、最近甲斐さん来るね?」と思い切って声をかけた。

「ああ、甲斐さんね、うん、たまに来るよ」と答えてくれた。

 

一世代あとの長渕剛も、福岡の思い出を語るテレビ番組で、「喜柳」を訪れ、片渕早苗さんと再会。当時の思い出話に花を咲かせた。

 

岸川らが彼らの父親がわりとすれば、「喜柳」のおばちゃんは、母親がわりの存在だったといえるだろう。 

 

NHK総合|きん☆すた「青春旅~長渕剛  in 福岡」

(NHK福岡放送局で2014/7/4(金)放送 。)

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次回は、「照和」の現在(いま)をリポートする。 

 

(参考文献、参考とさせていただいいたサイトは下記のとおり。)    

『照和』伝説―財津和夫・武田鉄矢と 甲斐よしひろたち

『照和』伝説―財津和夫・武田鉄矢と 甲斐よしひろたち

  • 作者:富沢 一誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1982/03
  • メディア: 単行本   

甲斐バンド40周年 嵐の季節

甲斐バンド40周年 嵐の季節

  • 作者:石田 伸也
  • 出版社/メーカー: ぴあ
  • 発売日: 2014/07/11
  • メディア: 単行本
九州少年 (ポプラ文庫)

九州少年 (ポプラ文庫)

  • 作者:甲斐よしひろ
  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2010/12/07
  • メディア: 文庫 
ポップコーンをほおばって―甲斐バンド・ストーリー (角川文庫)

ポップコーンをほおばって―甲斐バンド・ストーリー (角川文庫)

  • 作者:田家 秀樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1987/05
  • メディア: 文庫
井上陽水 FILE FROM 1969

井上陽水 FILE FROM 1969

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: エフエム東京
  • 発売日: 2009/04/24
  • メディア: 単行本

  
  (追 記)2017.9.23

この記事を書いたあと、博多初のロック喫茶として有名アーティストを輩出した、「ぱわぁはうす」についての書籍が発売されました。

 

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鮎川誠、サンハウス、THE MODS 、ARB などが活動したライブハウスの関係者、アーティストの記事、インタビューなどからなる、貴重な一冊です。

博多のロックシーンを彩ったアーティストの軌跡を知る上で、おすすめします。

Young-Beatles-37